「中東から世界が見える」(酒井啓子)

私たちは中東を色眼鏡で見るようになってきていた

「中東から世界が見える」(酒井啓子)
 岩波ジュニア新書

「中東=危ない地域」という先入観が、
私たち日本人には
染み込んでいるのではないでしょうか。
「現在でも各地で紛争が続いていて、
テロリストが大勢いる」、
そんなイメージが先行し、
「中東の国々とは
わかり合えない」という誤解が
生じているのではないかと思います。

本書は日本から遠く離れた中東で、
何が起きているのか、
そしてその背景にあるのは何か、
中学生でも理解できるよう、
平易な言葉で詳しく解説してあります。

第1章
アラブに民主主義はやってくる?

ここではアラブ諸国の民主化と
外国からの圧力の問題点について
述べられています。
イラク戦争は、米ブッシュ政権が、
中東を民主化しなければ、
世界は平和にならないという
論理で始まった戦争でした。
人命や人権を蹂躙するような
独裁政権の存在は
許すべきではありません。
アメリカのその論理に
何の疑問も持たなかった私たちに、
筆者は問いかけます。
「民主主義」とはそのように
外国に戦争を仕掛けてまで
「輸出」すべきものなのかと。

第2章
イスラームと政治

この章では、
宗教と政治の関係について
解説しています。
事あるごとに「イスラーム教」という
宗教名がクローズアップされ、
「イスラーム教=悪」という
間違った感覚に繋がっています。
しかし、
イスラーム教もイスラーム主義も
民主主義と
相容れないものではないのです。
私たちの誤解を解きほぐすように、
イスラーム教と政治の関わりについて、
筆者は懇切丁寧に詳解しています。

第3章
中東の若者がめざすもの

アラブの若者が、政治に対して
どのような不満を持ち、
それがどのような方向に
向かっているのかを
取り上げています。
2011年の「アラブの春」という
非暴力による反政府デモの動きは、
時間とともに
暴力の連鎖を生んでしまった流れや、
社会に不満を抱える若者が
武闘路線である「テロ」に走る構図が、
世界とのかかわりの中で
述べられているのです。

情報洪水の中で、
私たちは中東を色眼鏡で見るように
なってきていたのではないかと
反省させられます。
中東の人々は私たちと変わらない
人間であるということ。
イスラーム教は決して
危険な宗教ではないということ。
中東で起きていることは
世界の情勢と密接な関係があり、
それは日本にとっても同様で、
決して人ごとではないということ。
そうした思いを強くしました。

「世界を知る」ために、
中学生に強く薦めたい一冊です。
もちろん大人が読んでも
十分に読み応えのある一冊です。

(2019.10.25)

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